No.127

金曜日にお蔵入りしたお話、結局書きたいとこは書けたのでここに載せとく。

・生まれつき顔の左半分に痣があるサ
・気味悪がられて狐の面をずっとつけさせられ、そのうち家族にも捨てられる
・ゾは身分の高い侍
・捨てられてたサを気に入って拾う→のちに手を出す
・狐の面は絶対に外さない約束でサはゾに抱かれてた

っていう脳内設定で、書きたいシーンだけ書いたもの(裏テーマは「誓い」)。
この設定の部分からちゃんと書けばお話になるんだけどなー、結局いつも細切れの断片だけ書いてしまう。
ちなみに二人の口調は、完全に最近読んだ十二国記の影響受けてますね、はい。


 カラン、と虚ろな音を立てて半狐面が床を転がる。突然のことに目を見開いたサンジだったが、すぐさま露わになった素顔を両の腕で覆うと、ゾロの視線から逃げるように深く顔を俯けた。
「なんということを……! 決して面を取らぬと約束したはず、なればこそおれはーー」
 言い募るサンジの両腕をゾロが思いきり引いた。抵抗するのをさらに強い力で引き、隠されていたサンジの素顔が晒される。
「たしかに約束をしたな」
 ゾロが初めて見るサンジの素顔。その左の額から顳顬あたりにかけて、赤黒く醜い大きな痣があった。おそらくは多くの者が眉を顰め目を逸らすであろうその顔を、ゾロは表情一つ変えずに見つめた。
「やめろ、見るな!」
 必死に顔を背け、取り乱して叫ぶサンジの顎を捉え、無理矢理に(おもて)を向けさせる。
「あの約束は、これを見せないためか」
「ああそうだ! こんな醜い顔、おまえだって見たくはないだろう。だから隠していたのに、それをおまえは——! 人は醜いものを厭う。この顔のせいで、どれだけ化け物と憎まれ蔑まれてきたことか。実の親にだって見捨てられた。おまえだって同じだろう? この醜さゆえにおれを疎んじて捨てるんだ!!」
「……ずいぶん見損なわれたものだな」
 顎を掴んだままゾロが顔を寄せ、額が触れ合わんばかりの距離で怒りに燃える青の瞳をひたと見据えた。
「おれがそんな見た目ばかりの醜さに惑わされるような器の小さい人間だと言うか」
 その目を、サンジもぎりりと睨み返す。
「人は皆同じだ。どんなに御託を並べようと、おまえだって例外じゃない」
「ならばおまえこそ、上っ面ばかりで本質が見えていない大馬鹿者だ」
「なんだと……!」
「決して面は取らぬというおまえとの約束、おれはあえてそれを破った。おまえが顔に見られたくないものを抱えていたことくらいとうにわかっていたからな」
「だったらなぜ!」
「最後まで聞け!」
 有無を言わせない強い声に、サンジは思わず動きを止めた。
「おれは気まぐれでおまえに手を出したわけではない。心の底から欲したからこそ手を伸ばしたのだ。いいか、心の底から欲するというのは、おまえの全てを望むということだ。おまえがその面の下に隠したものとて例外ではない」
ゾロは愛しいものに触れるような手つきでそっとサンジの痣に触れた。
「おれはあえて約束を破り、神でも仏でもなく、他でもないおまえに誓うぞ。おれの命が尽きるまで、おまえを苦しめるその痣ごとおまえを愛するとな。だからおまえも未来永劫おれのものになると誓え」
「……誓わずとも、おまえに拾われたあの日からおれはおまえのものだ」
「そうか。ならばもう二度と狐の面をつけぬと誓え——その美しい顔を隠すな」
「——どうしておまえは、おれなんかを……」
「愚かな問いだな。そんなの、おまえがおまえだからだ。他に理由などない——で? 誓うのか、誓わんのか」
 サンジの瞳がゆらりと揺れ、透明な膜が張る。それから、全てをさらけ出したその顔がくしゃりと大きく歪んだ。
「おれは、おまえに誓う——もう二度と、この顔を隠すことはしない」
「……それでよい」
 美しいその泣き顔に口付けを落とすと同時、ゾロは白鞘の刀を音もなく抜いた。
 カラン、と澄んだ音が響く。
 床の上の半狐面は、きれいに真っ二つに割れていた。

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